…………
…… ………………ふと気がつくと、薄暗いところだった。
周りには古めかしい鎧や兜、書物や宝石だろうか。 そういったものが置かれている。…………
…………ここでワシは何しているんだ。
身体を動かそうとするが、全く動かない。「ここはどこなんだ。
そういえば、ワシは何をしていたんだ」…………
…………たしか、ゼドがワシのところに来て、勇者を討伐したと勇者の剣や防具を持ってきたんだったかな。
そして、その剣を鞘から抜いたら…… その後、どうだったかな…… ゼドの不敵な笑みだけは思い出せるが……そういえば、ここもワシが知らんところだ。
そしてなんで身体が動かないのだ。 ワシはどうなっているのだ。立っているような感覚はある。
目も見えているようだ。キョロキョロと周りを見回す。
左奥の方に光るものが見えたぞ。 鏡だ。 視線を鏡に向けてみた。?
剣が映っているではないか。
あれ? 鏡はこっちを真っすぐ向いている。 こっちはワシがいる方向だよな。??
!! !!!「何じゃこりゃ」
剣になっているではないか。
そういえば……
ゼドが持ってきた勇者の剣とやらを抜いた直後にまぶしい光が出てきて…… あやつはワシを嵌めおったのか。あれは封印の光か。
だからあんな笑みを浮かべていたのか。 してやられた。 四天王どもはどうなった。 そういえばあの時に姿はなかったな。…………
…… …………たしか剣と共に兜や鎧などもあったような。
であれば、ワシと同じくそれらに封印されたのか。 そうとしか考えられんな。 あの時見た覚えがある兜などはここにはなさそうだ。 となるとここにはいなさそうだ。周りの雰囲気からしてもここはワシの城ではないな。
あとその時からどのくらい時が経っていたのかも分からんのぉ。 今がどうなっているか、何かわかる手段はないのか。 あちこち見回してみるが、手掛かりになりそうなものはなさそうだ。そうこうしているうちに、扉のカギを開ける音がした。
「ガチャ」
数名の兵士が扉を開けて入ってきて、灯りをつける。
あれは人間どもだな。 …… ここは人間の支配する国か。 兵士たちが話す声が聞こえてくる。「王様は何を持って来いと話されていたんだ」
とある兵士が一緒にきた兵士に確認しているようじゃ。
「確か、勇者に渡す武器や防具と仰っていたはずだが」
確認された兵士がそのような返答をしておる。
「なら、これとこれとこれと……」
兵士二人が武器や防具を選びながら、こちらに近づいてくる。
これは外に出れるチャンスかもしれん。「よし、ワシを連れていくのじゃ」
声に出してみたが、兵士たちには聞こえていないようだ。
そうこうするうちに、ワシの目の前に来た。「これもかな」
兵士がいいながら、ワシを掴んだ。
よし、これで外に出れる。 あとは、勇者と言っていたかな。 そいつにワシを選んでもらおう。 でも声が出ないのに、どうやって選んでもらうんだ。兵士に担がれながら、出来ることはないのかと考えていく。
あとは出たとこ勝負じゃな。マリアについてくと、バカでかく煌びやかな扉の前に着いた。廊下の天井も高いし、扉も大きくて当たり前か。ここに王様がいるのだろうか。「勇者様を連れてまいりました」扉の前にたったマリアが近衛兵たちに話しかける。扉の前に立つ近衛兵が大きな扉の取っ手に手をかけ、扉を押す。そこには広い大きな間が広がっていた。奥の方のこれまた豪華な椅子に座っているのが、国王だろうか。国王の前につき、マリアが跪く。それと同時に、俺の方に目を送る。あっ、俺も同じことしないといけないのか。慌てて、俺も跪く。「勇者様がお目覚めになりました」マリアがそう告げると、国王が顔を崩す。「よく目覚めてくれた。私が国王のマルクス・アウレリウス八世である。 勇者をせっかく召喚したのに、このまま死んでしまうのではないかと思った」勝手に呼び出しておいて、勝手に殺されてしまったら、かなわない。「貴方が、国王が俺を呼び出したのか?」ちょっとムキになり大声で国王に話しかけた。そして、つっかかるように話す。「正確に言うと呼び出したのは私ではない ただ、私が命令して、召喚の儀式をしてもらったのだ」俺の様子に多少ひるんだのか、弱弱しい声で国王が答える。「勝手に呼び出されて、勇者と言われても困るんだが……」さらにつっかかる俺。国王が困った顔をして話し始める。「確かにそれはわかるが、こちらとしても事情があってな」今の状況を長々と説明しはじめた。纏めるとまず、前任の勇者が150年前に魔王を追い詰めたが、討ち取るまでには至らなかった。勇者たちは深手を負って帰還。その後、しばらくは平和になった。ただ、最近になり魔王軍が攻め込んで来るようになった。魔王に対抗する手段は、この世界にはない。異なる世界から勇者を呼び出すしかない。前任の勇者もそうだった。ということらしい。勝手に呼び出されて、魔王と戦えと言われてもな。でも戻る手段はなさそう。覚悟を決めるしかなさそうだ。「事情はわかった。 こうなった以上は仕方ないのかな…… で、この後はどうすればいいんだ」その言葉を聞いた国王の顔がほころぶ。「そうか。引き受けてくれるか。よかったよかった。 では早速だが、シルフィーネ村に向かってほしい。 魔物が増えてきているとの報告がある。 そこの状況確認と魔王に関する情報を
よし。うまく抜け出せたようだ。しかし、あやつは良くワシを選んでくれたな。なんだか力も少し出てきたような感じだ。「でかしたぞ。よくワシを選んでくれた」とあやつに声をかけてみた。そのまま、ちょっと力を入れてみた。すると、剣の外へ向かって体が流れていく感じがした。「んっ……」なんか首が動く。下も向ける手も動かせるぞ。脚もある。「これは……剣から出られたのかのぉ…… もしや封印が解けたのか?」独り言のようにつぶやいた。そしてワシの目の前には剣を持ったまま固まっているあやつがおる。目を丸くしてこちらを見ている。「何をそんなにこちらを見ておる」あっけにとられた顔をしておるあやつが、深呼吸して話し始めた。「………… おっ……お前は……だっ……誰だ!?」まぁ、ビックリするよのぅ。このワシですらビックリしておるのじゃから。「ワシか? ワシはソフィ……んっうん……ゾルダだ」あやうくソフィアというとろこだった。この名前はどうも魔王らしくなくて困る。改めてワシは言い直した。「魔王のゾルダだ」魔王と聞いてさらに驚いた様子のあやつ。なんとも言えん顔をしておるのぅ。「まっ……魔王!? さっき王様が話していた復活した魔王のこと!?」さらに驚いたのか、剣を離して床に落としよった。今度は剣の中に体が吸い込まれる感覚に襲われる。ふと見ると、天井だけが見えていた。どうやら剣にまた閉じ込められたようだ。封印が完全に解けている訳ではなさそうだ。「おい、おぬし! その剣を持て!」声が聞こえたのか慌ててあやつが剣を持つ。するとまた体が流れていく感じがした。すると、また動けるようになった。どうやらあやつが剣を持っている間だけ、外に出れるようだ。また出てきたワシにビックリしているようだ。「なんで魔王がここにいるんだ?」あやつが慌ててワシに問いただしてきた。…………おっと、そういえば今は魔王ではなかったな。「あそこでじじいが話していた魔王はゼドのことじゃ。 言うなれば、ワシは元魔王ってところじゃな」あやつはまだ状況を理解できておらんようじゃ。ワシへの確認を続けておる。「元魔王? 元だろうが前だろうかよくわからないけど…… で、その元魔王が何故にここに?」そう言われても、ワシも困るのじゃが……適当に話をし
昨日はいろいろとあったな。王様に呼ばれて、魔王を倒せと言われるわ、貰った剣には元魔王がいるわで……シルフィーネ村に向かう馬車に揺られながら昨日のことを思い出す。あの後もゾルダにはこの世界のことを少し教えてもらった。自分のステータスの見方も。「ステータス、オープン」レベルは1、パラメータも特筆するものはない、スキルも特に今はない。経験を積んでいけば何かは得られるのだろうか。そういえば、ゾルダが言っていたな。~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~「ステータスの見方はわかったか? おぬしは特に現時点では何か凄い能力を持っていることはないようだな」よくある飛びぬけた能力を持って転移する話。その期待をしていたが、不発に終わったようだ。そう世の中うまくいかないよな。「なんだよ~。 よくある異世界転移の話だったら、チートスキルか能力があるはずなのになぁ……」ゾルダがキョトンとした顔でこちらを見る。「なんじゃ、そのチーなんちゃらとか、異世界転移の話とかは……」元の世界の話だから、通用しないのは当たり前か。そこでゾルダに元の世界の流行りの話をしてみた。「あっ、こっちの話。 俺が元いた世界には、そういう作り話が流行っていて、 転移とか転生するとものすごい力や能力を持って、 無茶苦茶活躍するっていう話がいっぱいあってだな。 そのすごい力をチートって言っていたのでつい言葉が出てきた」感心した様子でうなづくゾルダ。「そうなのか…… おぬしの元の世界も面白そうなところだのぅ。 頭に思い描いたものを話として世の中に広めていくのだから」こちらの世界には小説とか物語とはないのだろうか。伝説という感じの話はありそうだけど。「まぁ、そういうことだ。 しかし、そう世の中、話のように上手くいかないな」俺は自分を納得させるように言い聞かせた。「そういうことかもしれんのぅ…… おっ、そうだ、ちょっと待っておれ」ゾルダが俺の頭に手を当て、目をつむる。「んっ…… でも、呼び出されただけのことはあるやもしれん」ゾルダは何かが見えたようにつぶやいた。「それは、どういうこと?」俺に何かがあるのか?ちょっと期待してしまう。ゾルダは手を当てながら話を続ける。「ワシは完全にではないが、素養というのを見る
さて…… ようやく外にも出れたし、さっさと封印の解き方を探さないとな。よくわからんのは、あやつがこの剣を握ったときは実体化が出来るようじゃが…… 完全に封印が解けている訳ではなさそうじゃ。 あやつが封印を解くカギやもしれん。 どうせまだこの剣からは出られんのだし、しばらくは同行するしかなさそうじゃ。あと、力も完全に出せている感じはしないのぅ。 さっきのあやつの戦いに使った力も、本来ならウォーウルフごときは姿形も残さないはずじゃがのう。 魔力を探知できる範囲も思ったより狭いな。 あやつがある程度強くなる前に強敵に出くわさないといいがのぅ。しかし、さっきの戦いは滑稽だったのぅ。 あやつがいた世界には剣も何もないのだろうか。 この世界は己の身は己で守らんといかんから、年端もいかない子供たちですら武器を使うことを教えられている。 あそこのなんとかっていう王もたぶんそれぐらいは出来ているだろうというところで訓練もせずに放り出したな。 これじゃ魔王を倒す前に、あやつが死ぬぞ。「ゾルダ、この先にはまださっきの狼みたいな怪物はいるのか?」ワシが考え事しているところだというのに、あやつは尋ねてくる。「はっきりと感じるだけでも、数十匹はおるようじゃ。 その先はもっとおるやもしれん」死なれては困るし、死なぬように教えておかんとな。「そんなにいるのか? いつになったら目的の村につくのやら……」あやつがため息交じりにつぶやいておる。 たかがウォーウルフごときで何をしておるのじゃ。「ほれ、そうこうしているうちに、すぐそこに1匹おるぞ」少しは自信を持ってもらわないとのぅ。 魔王のところまで行く前に、旅を辞めかねん。「さっき、レベルが上がって、スキルを覚えたじゃろ。 1匹だし、今度は手助けせんから、1人で戦ってみろ」1対1だし、なんとかなるじゃろ。 出来るかぎり手助けをせずに、強くなってもらわないとな。 こんなところでくたばりでもしたら、ワシの封印が解けないしの。 いざとなったら手助けはしてやるがな。「1人でか……」またボソッとあやつが独り言を言っておる。 相変わらず自信なさげじゃのぅ。「新しいスキル、新しいスキル…… これか。この【スピントルネード】ってやつは……」字のごとくそのままじゃろ。 何を深く考えてい
俺はウォーウルフキングと対峙して苦戦をしていた。それを見かねたゾルダが急に剣から飛び出してきた。「おい、お前、こっちだ。 ワシが相手をしてやるぞ。 ありがたく思え」そう言いながらウォーウルフキングの前に立ちふさがるゾルダ。静寂の中にウォーウルフキングの唸り声が響き渡る。「グルルルルゥ……」五臓六腑に染みわたるような低い声を出しながらゾルダを睨みつけていた。「そう血気盛んにならんでもよいのにのぅ。 うーん、そうだのぅ……お前に30秒くれてやるぞ。 その間に、逃げるなら見逃してやってもよいぞ」ゾルダはニヤニヤしながらウォーウルフキングに語り掛ける。何もそんなに煽らなくてもいいんじゃないか……俺が全然歯が立たなかったんだから、相手はかなり強いんじゃないのか。「ゾルダ、油断するなよ」相手を見下しているゾルダに対して俺は声をかけた。「ほぅ、油断するなよとは誰に言っておるのじゃ。 このワシにか?」そうだよ。だいぶ上から目線で話をしているから足元をすくわれないか心配になる。「いかにも余裕がありそうにしているから、大丈夫かと思って」その言葉を聞いてか、ゾルダがさらに満面の笑顔でドヤ顔になる。「余裕があるから、そういう態度をしておるのじゃ」ゾルダが俺の方に体ごと向いて言い放つ。戦っている敵に対して背を向けているのである。そんな隙を見せたら、ウォーウルフキングが襲ってこないか……と思ったら、案の定襲ってきた。「危ないっ」思わず声を上げてしまう。ゾルダはまだ俺の方を向いたままだ。ウォーウルフキングは爪をむき出しにして、ゾルダに襲い掛かってきた。「おっ、ようやくきたかのか。 こちらに来るということは、逃げる意思はないということじゃぞ」全く振り向きもせずにひらりとかわす。「せっかく時間をあげたのに、逃げずに襲い掛かってくるとは、なかなかの度胸よのぅ。 その度胸を賞賛してあげようぞ」ゾルダがなんか楽しそうだ。にやりとしながら、ウォーウルフキングに目を向ける。息つく暇なく手を出してくるウォーウルフキングだが、全くゾルダにはかすりもしていない。風に吹かれている柳のようにしなやかにかわしていく。「すっ……凄い」あっけにとられてしまった。ゾルダの動きに目を奪われる。そう言えば、元魔王って言っていたけど、本当なのかも
ウォーウルフキングをあやつが倒したあとから数日後……旅の目的地となっていたシルフィーネ村にようやっとたどり着いたわ。「ここがあのじじいが言っておったシルフィーネ村か」思ったことを口にしておると、あやつが窘めにくる。「じじいって、国王だぞ」見たままを言っておるのにのぅ。「あんな老いぼれをじじいと言って何が悪いのじゃ。 事実を言っておるだけじゃ」そう反論をすると、あやつは首を振りながら頭を抱えてしまった。「はぁ……」何ため息をついておるんじゃ。あやつは呆れておるのか。「事実だろうが言っていいことと悪いこととがあるんだって」怒りながらワシを見て諭すように話してきた。「………… ……って、なんで剣から出てる?」今頃気づくか。反応が遅いのぅ。だいぶ前から外に出ておるのに。「この間は剣を握ってないと出てこれなかったじゃん」あやつは驚いた顔をしながら、ワシを見ておる。「さぁ、何故じゃろな」ワシにもようわからんが……出れるようになったみたいだから、出たまでじゃ。「村の中で、ゾルダが姿を現わしていたら、村の人が怖がらないかな」血相を変えてワシに顔を近づけてくる。「まぁ、大丈夫じゃろぅ。 おぬしがおれば、何せ、勇者御一行様だからのぅ」ワシは元魔王とは言え、この姿は魔王には見えんからのぅ。見た目はそう人族の女と変わらんからのぅ。「それより、今のおぬしの態度の方が怪しいぞ」あやつは動揺しているのか、挙動不審になっておる。「いや……でも……元だとはいえ、魔王だったんだし。 お前のことは魔王と知られているんじゃないのか?」なんだ。そんな心配をしておるのか。「ワシが魔王だったころからだいぶ経っておる。 たぶん誰もワシの顔なぞ知らんじゃろ。 一応身なりも人に近いしのぅ。 おぬし、気にしすぎじゃ。 器が小さい男じゃのぅ」こんなもん、堂々としておれば、だいたい気づかれんもんじゃ。「それより、何か言われておったじゃろ。 あのじじいに」旅立つ前にあれやこれやじじいからなんか話があったと思うが……まぁ、ワシはしっかりと聞いておらんからわからんがのぅ。何か言っておったぐらいしかわからん。「じじいは余分だって」あやつがワシが外に出れるようになったのを気にしすぎるものだから、話をちょっとそらしてみた。ワシも何故出れ
俺はシルフィーネ村へ着くと村長のところへ向かった。途中ゾルダが姿を現したところは、ビックリしたけど。周りの人たちも特に気にする素振りもないので、大丈夫かな。村の中で暴れなければいいが……村の長の屋敷へとたどり着くと、ドアをノックした。「コンコン」「アウレストリア王国の国王からの指令で来たアグリというものです」ドアを開けると、美しい女の人が出てきた。村の長というから、てっきりおじいさんが出てくるのかと思っていた。「お待ちしておりました。 国王様からは勇者様が来られるとの連絡をいただいています」美しい女性は穏やかな口調で話す。「私がこのシルフィーネ村の長、アウラと申します」丁寧な挨拶を受けて、中の応接間に通された。聞けば、アウラさんはシルフ族という種族らしい。人よりは長生きらしく、132歳とのことだ。応接間の椅子に座り、状況の確認をする。「国王からは魔物が増えてきているからという話でしたが…… 今の状況はどうなっていますか?」「はい。ここ最近いつもと違う魔物が増えてきて、往来も難しい状況でしたが……」アウラさんは険しい顔をして話を進めていく。「数日前から王都セントハム方面の森に出ていた魔物が突然姿を消したとの報告がありました」んっ?たしかその方向は、俺たちが来た方向の話だな。「突然姿を消した……」なんとなく思い当たるところがあるかもと考えながら、アウラさんの話を聞いていく。「はい。 急な話だったものですから、確認のため、森へ腕がたつ者を向かわせました。 その者からの報告ですと、やはり魔物がいなくなっていたとのことでした」あれ……もしかして……と考えていたら、ゾルダが割って入ってきた。「魔物とはこれの事かのぅ」ゾルダはどこからともなく、ウォーウルフキングの頭を取り出した。「……ヒィッ……」アウラさんがひきつった顔をして、目をそらす。しかし確認もしないといけないのか、意を決したように指の隙間から見ている。「は……はい この魔物でございます」アウラさんが確認できたのを見てか、ゾルダがウォーウルフキングの頭をしまった。どこにそんなものを隠しているのか……「そうか。 であれば、この魔物はこやつが倒したぞ」ゾルダは体面上、俺ということにしてくれたらしい。「なっ…なんと。 さすが勇者様でございます
昨日は勇者様が来られてバタバタだったわ〜。国王様から勇者様の召喚に成功したことは聞いていたけど。こんなに早く来ていただけるとは思っていなかったわ。たしかあの時は……~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~「おい、お前たち。 急に魔物がいなくなった原因はつかめたのか」武装した中年の兵士、デシールが、若い兵士に対して声を荒げています。あらあら、そんな言い方しなくても……「申し訳ございません。 まだつかめておりません」若い兵士は直立不動でそう報告しています。やだわ……どうなったか原因を早くつかんでほしいわ。「さっさと探ってこい。 それでも、この村の強者たちか」さらに声を荒げるデシール。「デシール、そこまで言わなくてもいいですよ。 もう少し優しくしましょうね」私はデシールに向かい、そう窘めました。デシールは頭を掻き、苦笑いをしながら、私に対してぺこぺこと頭を下げます。若い兵士は、敬礼をしながら「承知 さらに手分けをして探ってまいります」と私とデシールに話すと、足早に森に戻っていきます。数日前に南の森の様子が変わってきたようでした。先日までの異様な雰囲気がなくなっていました。シルフ族の私は風の使い手でもあります。森を流れる風から、なんとなく様子がわかります。明らかに風の様子が変わっていたのです。そのこともあり、村の精鋭たちを集めて、南の森の様子を伺わせに向かわせました。その者たちからの報告もありましたが…うろついていたウォーウルフも姿は見あたらない。徘徊していたウォーウルフキングの姿も数日前から見ていない。そういう報告があがってきました。ただ原因はつかめなかていませんでした。私はこの森の通行を許可していいものかを考えていました。「原因がわからない以上は、いつ危険になるかわからないしねぇ。 いなくなった原因さえつかめれば……」そんな時でしたね。「コンコン」扉をノックする音が聞こえます。「アウレストリア王国の国王からの指令で来たアグリというものです」扉の向こうから男の人の声が聞こえてきます。んーっ……国王の指令……?もしかして……もしかしてもしかして……あ……あの……勇者様!?森でのことがわからず難しい顔をしていた私の顔が、いっきに綻びます。噂に聞い
フォルトナが去ってからしばらくすると、街の中のいたるところから煙が立ち上った。それと同時に爆発音も響き渡る。「フォルトナ…… ちょっとやりすぎじゃないのか」想定よりも多くのところで事が起きているように感じた。「たぶんじゃが、フォルトナだけではないな」ゾルダがその様子を見て言った。「えっ、フォルトナだけじゃない? どういうこと?」一人で向かったし、他の協力者なんてこの街にはいないはず。「だぶん、小娘の配下たちじゃろう。 この手際よさ、速さ、小娘の娘だけではこれほど出来んじゃろ」そういうことか……それならなんとなく納得が行く。でも、いつ来たんだろう。まぁ、なんとなくフォルトナが心配だから、俺たちの後を数名追いかけていたのだろうけど……「そんなことより、どんどん鉱山からは憲兵がいなくなってきてますわ」マリーが指差す方を見ると、街の騒ぎを聞きつけてか、憲兵たちがその対応に出て行っている。もともとどれくらいいたかがわからないから、何とも言えないが、それなりの数が出て行った。その後も、あちこちで煙や爆発音がするので、憲兵たちはどんどんと街に向かっていた。「これなら、だいぶ手薄になったかな」憲兵たちの出入りが落ち着いたところで、俺たちは鉱山へと入っていった。だいぶ街中への対応に出て行ったためか、少人数の憲兵はいるものの、中には入りやすくなっていた。「ここまでは作戦成功ですわね」マリーが感心したような口ぶりで話しかけてきた。「そうだね。 ただ、この後は中がわからない以上、出たとこ勝負かな」そう、中の様子が全く分からない。どれだけの強敵がいるかもわからないし、まだもしかしたら奥には憲兵が残っているかもしれない。慎重に行動して、なるべく戦わずにいけるといいんだけど……「数も少ないし、人ばかりじゃから、おぬしだけでしばらくはなんとかなるかのぅ」ゾルダは相変わらず余裕な態度で後からついてくる。いざという時に頼らざるを得ないから、今はあまり力を使わせないようにしないと。「この調子なら、なんとかなると思うよ。 ゾルダは最悪の事態に備えて」「真打は最後……じゃからのぅ」高笑いをするゾルダ。まぁ、それはそうなんだけど……ゾルダの出番が少ない方が危ない状況じゃないってところなので、そちらほうが助かる。「マリーは手伝ってあ
宿屋の女の人からいろいろ聞いた翌日--情報の確認の意味もあって、みんなで領主の家へ向かったんだよねー。近くまで行ってはみたものの、憲兵たちが厳重に警戒していて、アリの子一匹入る隙すらなかった。「こりゃ、中に入ってとか言える感じじゃないな」困った顔をしながら、アグリがぼやいていた。「そうだねー。 ちょっとこれだとボクにも無理かな」外がこれだけ厳しいと、中もかなり厳重に守っているだろうなー。「だから、ワシが蹴散らしてあげようぞ」ゾルダは血気盛んに息巻いているねー。その方がゾルダらしいけど。「ちょっと待ってくれ。 ここではまだゾルダの出番は早いから。 もう少しだけ待ってくれ」アグリは慌てて止めに入る。なんかいつものやり取りだねー。「外からは様子は伺えないし、何があるかもわからないから。 いったん、ここは様子見で、鉱山を見に行こう」アグリは領主の家の調査は諦めたようだ。でも、これだけ警備が厳重なら、仕方ないねー。その判断が正解だよ。それから領主の家から離れたボクたちは北東の鉱山の入口へと向かった。山の麓にある入口もこれまた警備がすごかった。人の出入りはあまりなかったので、ずっと男の人たちは中で働いているのかもしれないねー。「こっちも凄いな…… これだけ憲兵を鉱山や家に回していたら、街の入口に人は割けないな」どうやら街の出入りを見張るより、こちらの方が大事なのかもしれないねー。「街の入口に誰もいなかったのは、アルゲオのこともあると思いますわ」マリーがキリっとした表情でみんなが思ってもいなかったことを口にした。そしてそのまま話を続けた。「アルゲオがここの領主の差金の可能性が高いですわ。 アルゲオが出ることで、他の街との行き来が出来なくなり、 結果として、入口の警備もいらなくなりますわ」確かにそうかもしれないねー。マリーってそんな分析できる印象ないんだけどなー。意外に考えてるなー。「たっ……確かにそうかもしれんのぅ。 マリーは頭がいいのぅ。 ワシも考えつかなかったことを……」ゾルダはマリーの頭をナデナデしていた。マリーは満面の笑顔をしている。「当然ですわ。 これぐらいマリーにかかれば、簡単ですわ」胸を張って得意げな顔をしているマリー。そんなに調子に乗らなくてもとは思う。「それはわかったけど
鬱屈とした雰囲気が街を覆っておるのぅ。なんじゃろうな、この居心地の良さは……たぶんワシらの仲間に近しいやつらが何かしていそうな気がするのぅ。街についたとたんに感じる雰囲気が人の街ではないように感じた。明らかに人ではない何かが支配しているのぅ。もしくは関係しているか……あやつは馬鹿正直に調査調査と言うが、この感じだけでもわかるじゃろうに……ホントに感が悪いのぅ。「なぁ、おぬし。 この雰囲気、感覚からして調査せずともわかるじゃろ。 人が作り出したものと違うぞ」街中の様子を探っているあやつに、ワシが感じたことを伝える。「そうなのか? マリーが聞いた人は税が高いっていっていたから、悪徳領主が何かしらしているんじゃないの?」あやつからは能天気な答えしか返ってこなかった。「それもそれであるじゃろうがのぅ…… それだけではこんなことにはならないとは思うのじゃ」「ゾルダの言うこともわかったから。 とりあえずはまだ街の中の様子を伺っていこうよ」あやつはすごく慎重にことを進めることが多い。そんなに慎重に進めても事は進んでいかなと思うのじゃがのぅ。「……勝手にせい」半ば投げやりにあやつの進め方を容認する。あやつに付いて街の至る所に行ってみたが、どこも人はまばらじゃった。男の人の数は少なくそれも爺さんばかり。逆に女や子供が多かった。店や宿屋も女が切り盛りしている様子じゃった。「なんかすごく男の人が少ないな」「そうだねー。 それに活気もなくて、報告と全然違うねー」小娘の娘も話の違いに戸惑っている様子じゃ。確かに、聞いていた話とは大きく違うのぅ。もっと栄えて活気があってというのが、街に出入りしている一部の人の話じゃったと……でももしかしたら、それが全部偽りということもあり得るのぅ。この感じからすると。「こうなると、聞いていた話が嘘じゃったということではないのかのぅ。 一部しか出入りしておらんということは、そやつらも結託しておるということじゃ」「そうなのかな。 アルゲオが出ていたことも関係しているかもしれないよ。 男の人は討伐に向かったとか」またあやつは呑気な考えをしておるのぅ。「ゾルダの言うことも考えとしてはあるんじゃないかなー 中を見ている人が少ないってことは。 結託しているかどうかはわからないけど、口止
ムルデの街が近づいてきた。城塞国家の様相で、一面が高い壁で覆われている。そのためか、中の様子は外からは伺えない。城門も大きな構えをしていて、そこでは関所さながらの入念なチェックが行われていると聞いた。高い城壁には憲兵が配置され、たとえ城壁を登ってもアリの子一匹入らせない厳重な警戒をしているとの話だった。そこまで出入りを徹底していると聞いたため、何か粗相をして入れなかったらどうしようと思うと緊張する。「何をそんなに緊張しておる 入れなくても、そいつらを倒せばいいことじゃ」ゾルダは相変わらず脳筋な考えをしている。たまにはしっかりと考えているときもあるけど、大体強さは正義的な考えだ。「マリーもねえさまの言う通りだと思うわ。 マリーたちを止められるものはないですもの」マリーもゾルダに影響されてか強硬派だ。まぁ、魔族自体がそういうものなのかもしれない。人の常識を当てはめてもとは思うが、でも今は人として行動しているのでなぁ。あまり強引に進んで事を荒立てたくはない。「ゾルダもマリーも頼むから自重してくれ。 なんとか通してもらうようにするからさ」しばらく歩くと、城門の前に辿りついた。門は固く閉じられている。ただそこには憲兵らしき姿は見当たらなかった。「あれー、ここに入門をチェックする人たちがいるはずなのになぁー」フォルトナも辺りを見回すが、本当に誰もいないようだ。「本当に誰もいないようだな。 勝手に入っていいんだろうか……」大きな城門の脇にある出入り用の扉を開くかどうか確認してみる。「ギィー……」鍵などはかかっておらず開いているようだ。「入れるようだねー」フォルトナは周りをさらに確認しているが、人の気配はなかったようだ。普段なら城壁の上にいる憲兵たちも見当たらないようだ。「誰もいないのであれば、入っていいのじゃろぅ さっさといくぞ」ゾルダは出入り用の扉を開けてズカズカと中に入っていく。「ちょっと待てって 普段と違うってことは何かあったってことだろ」そう言って、ゾルダを止めようとするが、お構いなしだ。どんどんと先に行ってしまう。マリーもそれについてさっさとついていく。俺とフォルトナは慎重に周りを確認しながら、恐る恐る扉の中へ入っていった。分厚い城壁の中を潜り抜け、街の中へ出ると……そこはよどんだ空気が
目の前に大きな氷のドラゴンが出てきたと思ったらさー。マリーがしゃしゃり出て、倒そうとしたけど、倒せなくてー。アグリが助けに入って、苦戦しているな―と思ったら……なんか剣とか兜が光りだしてー。光ったなーと思ったら、ドラゴンが真っ二つに割れていたんだけどー。というのがここ最近の流れなんだけど……「ボクの出番がほぼないってどういうこと?」確かに戦いには参加してなかったけどさ。「出番ってどういうことかな。 そういうメタい話は、欄外でやってよ」アグリがなんか言ってきたけど……「何、その『メタい』って言葉! 何言っているかわからないし」分からない言葉を聞いてさらにいらつく。もっとわかりやすく話してくれないかなー。「ごめんごめん。 出番というか、あのドラゴン相手だとフォルトナが戦うのは難しいし、 後ろで控えていたので正解なんじゃないかな」そう言われるとそうだけどさ。ボクに何も出来ることはあの場ではなかったのは確かだけどねー。「ムルデの街までの案内はよろしく頼むよ。 その辺りの情報は持っているんだろ?」アグリはボクを道案内としか思っていないのかな。確かにムルデまでの道のりの情報は母さんに聞いているからわかっているけどさー。「ボクは道案内だけじゃなくて、もっと他にも頑張れるんだから。 そっちも頼ってほしいなー」ちょっと気持ちが収まらないのでグチグチと文句を言う。アグリは苦笑いしながら「頼るところはきちんと頼るから。 機嫌直してくれ」とボクのご機嫌を取りに来た。まぁ、そこまで言うなら、仕方ないなー。「わかったよ。 ちゃんとボクにも役割ちょーだいね」そうアグリに言うと、先頭にたちムルデの街の方へ向かっていく。アグリは慌てた様子で、ボクの隣に並んできた。ゾルダとマリーは、後ろについてくるようだ。マリーは相変わらずゾルダにベッタリしているなー。「そう言えば、ムルデの街というのはどんなところなの?」アグリがこの後向かうムルデの話をしてきた。「ボクが聞いている話だと、なんかとても栄えていて、 人も温厚で、活気があるって聞いてるよ」「へぇ、そうなんだ」アグリはうなずきながらボクの話を聞いてくれた。「ただ、一部の商人や役人以外は、ムルデの街への出入りは出来ない状態なんだ。 街の人たちも、居心地がいいのか、誰一
「危ない!」思わず声を出し、体が反応してしまった。気づけばマリーの前に立ち、氷壁の飛竜の攻撃を受け止めていた。マリーはあっけにとられた顔をしている。「うりゃーーーー」さすがにアルゲオの攻撃は重たい。なんとか受け止めて弾き返したが、まだ手がジンジンとする。さて、この後どうするかな……マリーの力はたぶんもっと凄いのだろう。俺よりか遥かに。ただ前にゾルダもそうだったけど、何かしらが原因で力を出し切れない状態なのだろう。力を取り戻せるようになるまでは、俺もサポートしないと。ゾルダに一喝されたマリーはゾルダの下へと走っていった。涙がこぼれていたようだけど、力が出せないことがよっぽど堪えたのだろう。考えなしにアルゲオの前に立ったけど、どうしたものかな。さっきの感じだと、攻撃はなんとか受け止められそうだけど……俺の力でアルゲオは倒せるだろうか……手伝わせてよと見得を切った手前、やり切らないとな。思わず苦笑いになる。「おぬし、そいつを倒せるのか? ワシはいつでも準備万端じゃぞ」ゾルダはニヤリと笑いながら俺に言った。「やるだけやってみるさ」そう言うと俺は剣を構えて、アルゲオに向かっていった。「グォッーーーーーー」再び吠えるアルゲオ。そして翼を振り切ってきた。「ガーン」重い一手が剣を捉える。「ぐはっ」さっきも受けたけどかなり重いな。アルゲオの重みが一気に乗っかってくる。さらにアルゲオが攻撃をしかけてくる。翼をやみくもに振り回してくるが、すべて剣で受け止める。手数が多くてなかなかこちらからは攻撃が仕掛けられない。「大丈夫か、おぬし 受けてるだけでは倒せんぞ」マリーを抱きしめながら、俺に対しては煽りをいれるゾルダ。そんなことは俺でもわかっている。でも受けるので手いっぱいで、反撃が出来ない。「言われなくてもわかっているよ」前の俺なら、この攻撃も受け止められなかったのかもしれないが、なんとか受け止められている。そういう意味では成長出来ていると実感が出来る。でもここでは、もう一歩先、反撃できる力が欲しい。直接のダメージはないもののジリジリと追い詰められていく。やっぱり俺ではダメなのか。もっともっと強くならないと……力が、力が欲しい……そう強く願う。その時だった。剣と身に着けている兜が光だし共鳴を
「なんだ! あの大きいドラゴンは?」あいつが大きな声を出す。そんなに大きな声を出さなくても見ればわかるわ。「あいつは確か、アルゲオという氷属性のドラゴンじゃったかな。 氷壁の飛竜とも言われとるはずじゃ」ねえさま、さすがいろいろ知ってらっしゃる。「ボクも名前だけは聞いたことあるけど、実際に見るのは初めてだねー」フォルトナはずいぶん呑気に構えていますわね。「グォーーーーーー」氷壁の飛竜アルゲオが一吠えすると、猛吹雪がマリーたちに向かってくる。風雪に耐えながら、みんなが戦闘態勢を整え始める。特にねえさまからは闘志がみなぎって見えるわ。「さてと…… ワシの出番じゃのぅ」ねえさまが一歩前へ出るところにマリーが割って入ります。「ねえさま、ここはマリーに任せてほしいの」やる気まんまんのねえさまだけど、マリーもいいところ見せたいし。今回はねえさまには悪いけど、マリーに戦わせてほしいわ。「ん? なんじゃ、マリー。 お前がやるというのか……」ちょっと怪訝そうな口調でねえさまがマリーを見てきた。「ねぇ、お願い、ねえさま。 せっかく助けてもらったのだから、少しは役に立ちたいわ」ねえさまが戦いたいのはわかるけど、任せてばかりでは立つ瀬がないわ。ここは是非にでもやらせてほしいという思いもあり、今回は一歩も引かないつもり。「うーん。 仕方ないのぅ。 マリーに任せよう」マリーの覚悟を受け取ってもらえたみたいで良かったわ。ねえさまにいいところを見せないとね。「ねえさま、ありがとう」ねえさまの胸に飛び込んでお礼を言うと、氷壁の飛竜の前へと向かった。「なぁ、ゾルダ、マリーに任せて大丈夫なのか?」あいつが、何か心配をしているようだけど、これぐらいの敵、マリーは大丈夫。「まぁ、本来の力を出せれば、問題なかろう」ねえさまはさすがわかってらっしゃるわ。安心してマリーに任せてね。「さぁ、氷だらけのドラゴンさん。 マリーが相手しますわ。 かかってらっしゃい」氷壁の飛竜がマリーの方を向くと、また一吠えする。「ガォーーーーーー」そんな遠吠えを何度しても無駄ですわ。荒れ狂う竜巻のような風雪がマリーの方に来たけど、一向に気にしないわ。「それだけしか能がないの? このドラゴンさんは。 それ以外してこないなら、こちらから行くわよ」た
しかし、人というのは面倒じゃのぅ。いろいろ頼んだり頼まれたり。己の事だけやっておればそれでいいのではないか。あやつがいろいろと頼まれておるのを見ていると、そう感じたりするのじゃが……「のぅ、おぬし。 大変じゃのぅ。 いろいろと厄介ごとを引き受けて。 ワシじゃったらそんなこと聞かんがのぅ」次の目的地に向かう道すがら、あやつに問う。「そもそもそれが俺がここに呼び出された理由でもあるし…… 確かに何でもかんでもとは思うことはあるけど、 困っている人は放っておけないよ」あやつもあやつなりに考えるところはあるようじゃな。それでも引き受けておるところをみると、人がいいのじゃろぅ。それか、よっぽどのバカじゃ。「まぁ、ワシはゼドをぶっ潰せればいいし、 強い奴らとも相まみえることが出来ればいいんじゃがのぅ」長い間外に出れなかったのもあって、ゆっくりと外の世界を満喫したいとは思う。そうは思うのじゃが……「とはいえ、早くゼドをぶっ潰したいので、先を急がんかのぅ」とあやつを急かしてみる。しかし、あやつは、「急いで行ったら、俺が死ぬよ。 確かにゾルダは強いけど、俺はそんなに急に強くはなれないし、死んだら困るのはゾルダだろ」と正論を言ってくる。おぬしが弱いのはわかりきっておる。だから鍛えてきたのじゃが……確かにゼドたちと戦うには、まだ足りんやもしれぬ。ただ出会った頃に比べたら格段には成長しておるがのぅ。「わかった、わかった。 おぬしに死なれては、また剣の中じゃ。 おぬしのペースでいいのじゃが、ワシら気持ちもわかってくれ」急いても仕方ないので、しばらくはおぬしに付き合っていくしかあるまい。ゼドのところに行くまではのんびり構えておくかのぅ。そんな話をしながら、ワシらは砂漠を超えて、問題の山のふもとに到着した。「なんだか急に寒くなってきましたわ。 ねえさま、寒いですわ」マリーの奴はそう言うとワシにぴったりとくっついてくる。「今まで暑かったのになー 急に天気が変わり過ぎだよー」小娘の娘も寒さに震えだしてきたようだ。山頂の方を眺めると、雲で覆われて何も見えないのぅ。少し上の方を見ると一面が白く覆われておる。「いつもはこんな天気じゃないのかな。 これが異常気象ってやつなのかな」あやつも山を眺めながらそう言っておった
昨晩はなんかすごく疲れていた。宿についてベッドの上で横になってからの記憶がない。ゾルダやマリーが俺の部屋でなんか話しているような気がしたが……朝になりベッドから起き上がると、部屋は静けさが漂っていた。ゾルダたち3人は自分たちの部屋に戻ったのだろうか。寝ぼけまなこをこすりながら、昨日デシエルトさんが言っていたことを思い出す。『明日落ち着いたらでいいんだ。 昼でも食べながら、今の状況について話をさせてほしい。 国王様からも話が来ているのでな』確か、そんなことを話していたと思う。さて……今はどのくらいの時間帯だろう。閉まっている窓を開けると、まぶしい日差しが入り込む。人々は街を行き来し、活気にあふれていた。まだ建物の修復が終わっていないところが多いためか、その作業に追われている人たちもいた。空を見上げると……日は高く昇っている。…………「あーっっっっっっっっっっっ」デシエルトさんとの約束の時間が……全身から血の気の引くのを感じた。一気に目が覚める。バタバタしながら出かける準備をする。落ち着けと落ち着けと自分に言い聞かせながら。準備が終わると、俺は部屋を出てゾルダたちを呼びに行った。先日はここでノックをしてすぐ扉を開けて大変だった。いわゆるアニメや漫画のお約束シーンのような出来事だった。さすがに今日は大丈夫だろうとは思うが、ここは慎重に。慌てずノックだけして、話をしよう。「コンコン」「俺だ。アグリだ」すると中からゾルダの声がした。「遅かったのぅ、おぬし。 今日は全員服を着ておるから安心しろ。 入ってきても大丈夫じゃぞ」ある意味普通のことだが、安心して扉を開ける。中を見渡すと、相変わらずゾルダの横にベッタリしているマリーと大きく伸びをしているフォルトナもいた。「遅くなってわるい。 昨日デシエルトさんに昼に屋敷にこいと言われていたのを忘れていた たぶんそのまま次に向かうと思うから準備して行こう」そうゾルダたちに伝えると、皆が準備するのを宿の外で待つことにした。準備はすぐに整い、全員でデシエルトさんの屋敷へと向かった。時間も時間だったので、急いで向かうことにした。ゾルダは特に気にすることもなく「もう少しゆっくりでもいいじゃろぅ そう慌てるもんでもないのにのぅ そんなのは待たせておけばよ